『樂』という字が好きで、修行中の篆刻でもこの字を彫ることが多い。最近も『樂』の一文字を3作ばかり彫り上げた。ちなみに「楽」は『樂』を簡易なものにした日本固有の文字である。
『樂』は音読みで《ガク・ラク》、訓読みで《たのしい・たのしむ》。《ガク》は「音を組み立てた調べ・楽器」、《ラク》は「楽しむ・楽しい・たやすい」という意味である。「木・白・糸」という象形文字が組み合わさっている『樂』について調べてみた。「鈴説・繭説・琴説」があるそうだ。
「鈴説」木はクヌギの木であって、クヌギにドングリの実が育っている。白はドングリをあらわしている。これから転じて「巫女鈴」のような楽器。糸は飾りの糸だ。舞楽のとき 糸飾りのついた鈴を振って 神を楽しませるのに使った。
「繭説」やはり、木はクヌギだ。「糸」はクヌギの木についた山繭(やままゆ)の糸のことであり、山繭によって木が白っぽくなっている。絹糸が出来るので楽しみだ。の「樂」だとか。
「琴説」木に糸を張ってある。糸とは弦のことだ。白は弦を調律する部分。具体的すぎるのがちょっと怪しい?これは楽器の琴(筝)だ。
ちなみに、クヌギは「椚・橡・栩・椢・椪・椡」などの漢字があり『樂』に木へんをつけた「櫟」もクヌギ。
さらに、古い時代の楽器(三味線やサウンガウ)の弦は絹糸を使っているものがあるので、繭 → 絹糸 → 絃(弦)というわけで「繭である説」も楽器と関連はしているとのこと。だから、もともとは弦楽器を弾くという意味だが、聴いていると楽しくなるということで「楽しい」に転用されたようだ。
『樂』は解決!次は『三樂』
今回遊びではあるが、3つの『樂』を彫ったからか『三樂』についても気になった。学生の頃、いつも屯していた「三楽(みらく)」という名の喫茶店、「三楽オーシャン」なんてCMもあったなあ・・・。そこで『三樂』についても調べてみた。有名なのが孔子の『三樂』と孟子の『三樂』。
孔子曰く、「益者三楽、損者三楽。礼楽を節せんことを楽しみ、人の善を道う(言う)ことを楽しみ、賢友多きことを楽しむは、
益なり。驕楽を楽しみ、佚遊を楽しみ、宴楽を楽しむは、損なり」と。即ち、ためになる楽しみと、害になる楽しみとがある。一般に『三樂』と言えば、この論語の「三楽」ではなく、孟子の『三樂』の方が有名らしい。
「”君子有三楽、而王天下不与存焉”君子(くんし)に三楽(さんらく)有(あ)り、而(しか)して天下(てんか)に王たるは与(あず)かり存(そん)せず。(尽心篇)」
三楽の第一は、父母がそろって健在で兄弟に事故がないこと(父
母倶存兄弟無故一楽也)、第二は、自らを省みて天地に恥じることがないこと(仰不愧於天俯不怍於人ニ楽也)、第三は、天下の英才を集めて若い人を教育すること(得天下英才而教育之三楽也)で、
「君子には三楽があり、天下の王となることとはかかわりがないのだ。父母が二人ともご存命で、兄弟が息災で暮らしていること、これが一楽である。上を向いて天に恥じることがなく、下を向いて人に恥じることがない、これが二楽である。天下の英才を集めて教育すること(英才教育)、これが三楽である。君子には三楽があるが、天下の王となることとはかかわりがないのだ」
いずれも人生の真の楽しみは、世俗的な栄誉ではないことを謳っている。
日本にも『三樂』について面白いものがあった。江戸時代の儒学者貝原益軒の「養生訓」。
養生訓は益軒自身の実体験に基づいて書かれた物で、長寿を全うするための身体の養生だけでなく、心の養生も説くところに特徴があるという。
その中で、孟子の君子の『三樂』にちなんで、養生という点から『三樂』は「道を行い善を積むことを楽しむ」「病にかかることのないのを快く楽しむ」「長寿を全うすることを楽しむ」としている。
長寿を全うするための条件として、自らの内にある4つの欲を抑えることとして「あれこれ食べてみたいという食欲」「色欲」「むやみに眠りたがる欲」「徒らに喋りたがる欲」を我慢するべきだといっている。これらを押さえた上で、季節の暑さ寒さなどの変化に合わせた体調の管理などが揃って初めて健康で長寿を得られる。益軒は愛妻家でこれを妻とともに実践し、晩年も夫婦で福岡から京都まで物見遊山にでかけたりして睦まじく長生きしたという。なるほど!
ほかに列子(天端)人生の三つの楽しみ。人間として生まれたこと、男子として生まれたこと、長生きしていること。これは女性に怒られそうだ。
いずれにしても、単に楽しく楽に暮らしていくだけでなく、人生の真の楽しみ を得るように生活していきたいと思う。できれば、貝原益軒的な人生がいいなあ。でも我慢することは???
まあ『百樂』にでも挑戦しながら『樂』について考えていこうか。
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